Tategurumi in Suwa district, Nagano
諏訪には「建てぐるみ」という土蔵の建て方がある。主屋が土蔵を取り込むように建てられるもので、寒さへの備えや物の出し入れの便宜、屋敷地の有効活用という目的があるそうで、明治から普及した様式だということだ。
今和次郎氏の『草屋根』などに記述があり、1つ2つでも見れればよいと思い茅野から諏訪大社上社、上諏訪温泉のあたりまで歩いたところ、思いがけず無数の建てぐるみが残っていた。そもそも建てぐるみに限らず土蔵がやたらに多い。
建てぐるみには色々なかたちがあった。上図、上段左の妻入りのが古典的なもので、破風板を拝みで交叉させて棟飾りとする。上段右は新しい造り。中段と下段左は入母屋の例、中段は妻側、下段左は平側に土蔵の妻面が表れている。面白いのは下段右で、土蔵部分のかたちが不明瞭に拡がっており、窓の造形に土蔵らしさを留めている。この類には他にもいくつか面白いバリエーションがあった。
また諏訪の土蔵には装飾を凝らしたのが多い。拝みに丸く突出した部分を丑鼻うしばなといい、ここには家名や家紋、家印を描くか、防火のまじないで「龍」や「水」と書いたり、大黒様や鶴や亀などを色とりどり鏝絵で描いたりする。鉢巻や窓回りには複雑な造形を施し、白黒で塗り分ける。腰は板張りにするのが多いがいくつかナマコ壁にしたのがあった。
数多ある建てぐるみの中で最も先鋭的なのがこれだ。
古い町の一角にあったもので、一見ありふれたハウスメーカーの住宅だが、手前の小さい窓が諏訪の土蔵の窓の造りになっている。よもやこの中に土蔵が入っているわけではないと思うが(入っていたら私はうれしいが)、土蔵/建てぐるみを建てるということが今なおステータスになっているのかもしれない。土蔵ファンは諏訪へ急げ。
似た様式に秋田の内蔵うちぐらがあるが、これは土蔵を主屋背後に完全に覆い隠すように造るものだ。必ず土蔵の一部を露出させる建てぐるみと、どのような意識の相違があるのだろうか?
似た様式に秋田の内蔵うちぐらがあるが、これは土蔵を主屋背後に完全に覆い隠すように造るものだ。必ず土蔵の一部を露出させる建てぐるみと、どのような意識の相違があるのだろうか?
参考文献:
『原村の土蔵を彩る鏝絵』(長野県諏訪郡原村教育委員会、2014年)
茅野市にある鏝絵天香館にて購入した。
『原村の土蔵を彩る鏝絵』(長野県諏訪郡原村教育委員会、2014年)
茅野市にある鏝絵天香館にて購入した。