2016年1月12日

観光スタンプ


Pictorial rubber stamps, or Modern tourism

古い絵入り観光スタンプへの熱が高じて
 ついに自分のを作ってしまった(上図)。

かねてより思慕を寄せていた古いスタンプだが先日、古書市会場より発見の報を頂き確保した昭和11年の『趣味のスタンプ集』という本がことのほか面白かったのだ。


郵便局の風景印や駅のスタンプはファンも多いので印影をまとめたものも数多く出ているが、この本は寺社仏閣から旅館や商店、イベントの記念スタンプ、果てはスタンプラリーのスタンプと思しきものまで片っ端から収録しているのが凄みだ。


さて内容をご覧頂きたい。
図案の優れたものを一部抜粋した。

定山渓鉄道豊平駅のスタンプで描かれる名所名物は5つ。
①平岸のリンゴ  ②スキー  ③中島公園の札幌放送局  ④豊平橋  ⑤月寒の緬羊放牧場、仕切りや小枠を駆使して詰め込んでいる。名所尽くし式図案の好例。
 
総武線四街道駅は陸軍演習場が名所、図案は兵器尽くし。
東海道線草津駅では、弥次喜多と石の道標という古い観光情緒に猛然とSLが走り込んでくる図案。近世と近代の対比というのも頻出する構図だ。
 
大谷旅館は呉ゆえに軍艦を描く。
自然荘鎌倉園は由比ケ浜の海水浴場を描く。浜辺では水着美女、またはそれを隠すパラソルが描かれるのが多い。なお外枠の月と星は鎌倉町の紋章にあやかる。 
旭屋は名古屋の路面電車の電停の売店のスタンプ、ビル街を疾走する電車を描く。電車はこのアングルのが多い。

温泉会館は東京京橋にあった観光案内所と思しき施設、温泉マーク形の湯船につかる美女を大きく描く。
白石館は伊豆長岡の温泉旅館。写実的な温泉情景にやはり美女を描く。左は日本髪、右は洋髪だろうか。
玉子屋石鹸店もお色気スタンプの例。風呂というと日本髪の女性を描くのは、海水浴場の水着美女との新旧対比というか、なにか当時のレジャー観が表れている気がする。



この本の出版元は「シヤチハタタイムス社」、すなわちシヤチハタの広報活動として編まれたもので随所には同社の万年スタンプ台のPRが光る。シヤチハタこと舟橋商会は名古屋の会社なので、収録されているのも名古屋の商店のスタンプが多い。

古い観光図案の特徴としてはもうひとつ、地方性を象徴する図像を記号的に使うということがあるのだが、上図の例を見ると名古屋の場合はそれがシャチホコだということがわかる。抽象化を伴いつつ繰り返し現れるシャチホコは名古屋のもうひとつの紋章といえよう。

(西洋の紋章にみられるように、所属する地域や団体を象徴するために特定のチャージを図案に付加するということは日本にもあると常々思っている。
北海道の五芒星とか、秋田県のフキの葉っぱとか、滋賀県の六角形とかがそうだ。)



最後に面白いのは上の4点、スタンプ制作に関わる業者のスタンプが収録されていた。

スタンプは写真製版で得た凹版でゴムを鋳造してつくるようだが、その手順から図案作成のヒントまで巻末に掲載されている。マニア向けというよりも、スタンプの普及が主眼という感じ。制作サイドから見たスタンプ集という点でも貴重だ。


そういうわけで私のスタンプも名所尽くし式の観光図案スタイルに基づいて作ったのだ。ゴム印専門の会社に注文し印面はこんな感じ。
営業の三本柱(たてもの・けもの・時代錯誤)を前面に出し、なかんずく専門とするところの土蔵、また近代建築、温泉地、炭鉱、港町、鉄道、動物キャラクターを配したものである。