2015年4月24日

肥後の八角ナマコ


Vernacular façade tiling in Kumamoto

先々月のことになるが
 飛行機で熊本へ行った。
すばらしいものを沢山見てきたが
 今日はひとまず壁の話。


なまこ壁という様式がある。
平たい瓦を土壁に貼りつめて、その目地に
漆喰をナマコ形に盛りつける
美しい防火防水技術だ。

第1図 豆州三島

上図は伊豆の三島の例だが、このように
 瓦を隅立てにする造り方が全国的に多い。
 地域によってか造り方にバリエーションがあり、
ナマコ部分をふくらまして七宝つなぎにしたものや
六角形の瓦を使ったのも見たことがある。

第2図 肥後熊本

して熊本では
ナマコ壁をこういう風に造るのである。
八角形!八角形なのだ。

中に入っているのはおそらく正方形の瓦だが、
四隅をひとつひとつしっかり塗り込めている。
遠目にも麗しいこの造り方は
肥後に多く行われているようだ。

なぜこのような形になったのだろうか?
瓦を留める釘の保護か(にしては厳重だ)、
あるいはよっぽど雨が降るとか、
考えながらさまよっていたら
宇土半島のとある港町で
答えとおぼしきものを見つけた。

第3図 肥後松合

八代海に面する松合という古い港町に
上図の見事な壁はあった。
第2図に掲げた熊本市街の例と比べて
造りが立体的になっている。
それは瓦が、平たい瓦でなく
屋根に葺くような反りのあるものだからだ。

第4図

成立の過程はおそらくこうだ。
反った瓦を互い違いに並べると、
上下に隙間ができてしまう(上図1)。
なのでその隙間を埋める。隙間の形状から、
埋めた部分は円錐形になる(上図2)。
そののち、他のナマコ壁と同じように、
目地を盛りつける(上図3)。

この場合、八角形の造形は順当だ。
そしてこの反った瓦を使うものが、
第2図の平たい瓦を使うものよりも
より古い造り方なのではないだろうか。

反った瓦の時代のかたちが様式化して、
ゆくゆく平たい瓦を使うようになっても
八角形だけが残っているというわけだ(上図3→4)。


このあと立ち寄った筑後の柳川では
ナマコ壁はあったが造り方は全然ちがった。
九州の奥行きを垣間みた。