2016年2月21日

碁盤の目の街の話


Planned cities: Kyoto and Sapporo

京都と札幌

A 今の京都

京都と札幌どちらも碁盤の目の街だ。京都のほうが1080年ほど古い。ゆえにか京都の街中にはおびただしい数の細かな地名があり、それを長々と綴る独特の住所表記をする。しかし模式図を描いてみたら案外単純なつくりをしていた(図A)。格子の1辺の両側がひとつの町というわけだ。なので町の領域は菱形に近くなる。

が、図の左側あたりは菱形がくずれており、内側にもうひとつ町ができている。格子の真ん中にもう1本道を追加したからで、これは豊臣秀吉が通した道だと言われている(天正の地割)。

B 昔の京都

図Bは同じ箇所の昔の状況を描いたもので、黄色い部分が平安京。当時は街区をこのようにナンバリングしていたらしく、発掘調査があれば「左京四条四坊二町跡」などと遺跡名がつく。

また赤と青は戦国時代の市街地の範囲を重ねている。図Aの菱形の部分がおおよそ当時の市街地の範囲なのだ。応仁の乱のあとは街がコンパクトに固まっていた。それで天正の地割を通した部分と通さなかった部分とができているわけ。

『京都仕舞蔵文化財研究所発掘調査報告 2008-12 平安京左京四条四坊二町跡』(財団法人京都市埋蔵文化財研究所、2009)、およびホームページ「平安京探偵団」を参照。


あの長い京都式の住所表記も、実は非常にわかりやすい。試みに図A右上、◉で示したところの住所を記すと「京都市中京区室町通蛸薬師下る山伏山町」となる。室町通蛸薬師というのは「室町通・蛸薬師通の交叉点」を示している。「下る」と続くのは、その交叉点から南に進めということ。

碁盤の目の座標を基準にした表記であり、札幌で何条何丁目というのと根本は同じだ。しかし京都が一枚うわてなことには、座標「室町通蛸薬師」は「蛸薬師通室町」でもよいのだ。その住所が面する通りを頭に持ってくる。先ほどの住所を
書き下せば『京都市中京区、室町通と蛸薬師通の交叉点から南に進んだところにある山伏山町、そのうち室町通に面してる建物』というまでの情報が入っている。 

なお京都市中京区室町通蛸薬師下る山伏山町というのは京都芸術センターの住所で、昭和6年に建ったもと明倫小学校の校舎を活用している。上図のかっこいい建物がそれだ。


京都式住所表記についてはブログ「京都仁丹樂會」や
ウィキペディアの項目「京都市内の通り」に解説されているのを参照。

C 今の札幌

うってかわって札幌の中心部の模式図。京都に同じく碁盤の目ではあるが、町や通りの呼ばわり方は機械的な条丁目方式だ。北海道の平野部の都市はあらかたこの方式を採用している。大通と創成川の交点を中心としているが、マピオンで確認したところ現在は北51条、南39条、東30丁目、西30丁目まで広がっている。

D 昔の札幌

そしてこれは創建間もないころ、1873〜1877年あたりの同地点を示した。大通より北が役所街、南が商業地とわけられ、大通公園は火事があったとき延焼を防ぐための空きスペースだった。

特記すべきはそれぞれの通りに名前がついていたことだ。これは北海道内の国名と郡名を冠したもので、1873年に制定され、1881年に廃止された。『開拓使事業報告付録布令類聚上編』(1885年)国立国会図書館蔵に当時の布達が掲載されているが、おもしろいことに地名の呼び方の例が付記されている。次に引用する。

(前略)但幾丁目ノ唱ヲ用ヒス何通何東ヘ入西ヘ入抔相唱フヘク譬ハ創成町止宿所即創成町日高南ヘ入東側渡島通止宿所ハ即渡島通山越西ヘ入北側ナリ餘ハ準之」太字筆者

創成町止宿所はいまのバスセンターの一丁南、渡島通止宿所は三越があるところだ。最初はそれぞれ本陣・脇本陣と称していたので、公用の宿泊施設だったろうか。とくにお傭い外国人の方々が滞在していたということ。


「渡島通山越西ヘ入北側」となれば、これは明らかに京都方式の呼び方だ。たしかに『明治七年札幌市街図』(1874年)北海道大学附属図書館蔵には、街路にところどころこの呼び方が記入されている。見ると、布達の例では創成町止宿所の住所を「創成町日高南ヘ入」としているところ、大村図では「創成通沙流北入」となっている。実用の上で多少の法則性が加えられていたかもしれない。

京都方式といえばあのあこがれの仁丹の琺瑯引き町名看板だ。札幌の通りの名前は惜しいかな8年で消えてしまったが、京都みたいな密度の高い地名が街頭に踊る未来もあったかもしれない(上図)。あるいはかつて平安京が事務的な町名だったように、札幌もあと何百年か経てばどうなっているかわからない。
 
明治七年札幌市街図』(大村耕太郎原図:1874年成立、1917年模写)北海道大学附属図書館蔵、および『石狩州札幌郡札幌市街図』(1873年)札幌市中央図書館蔵 等を参照。


そこでふと思ったが、要は
・碁盤の目で
・通りに一本一本名前がついてる
という街なら京都方式でいけるというわけだ。
そういうところは世界中にある。試みに2例作ってみた。
どこでしょう。